この世には、エリクサーを躊躇なく使える人間と、使えない人間がいるんだ。

僕は彼女の不幸な顔しか知らない。

「遅れてごめん」

彼女は息を弾ませてそう言いつつ、カップを片手に向かいの席に座った。

「そこまで待ってないよ」

僕の言葉はカフェの喧騒に吸い込まれた。もう何度となく交わされた会話だ。彼女が僕に会いたいと言ってくる時は、彼女の人生が上手くいっていない時だ。

彼氏ができたり、他に夢中な趣味があったり、仕事に没頭している時、同期との飲み歩きが楽しい時、彼女は僕に声をかけない。

ただSNS上で見知った関係だけがそこにある。

彼氏と別れたり、仕事がうまくいかなかったり、そういった彼女自身が煮詰まったであろう時に僕に声がかかる。

都合が良いといえば都合が良い相手なのだろう。だから僕は彼女が上手くいっていない時の顔しか見たことがない。

彼女が結婚し、もう何年も声がかからなくなっていたが久々に声かけられ、彼女の職場近くのカフェで会うことになったのだ。

僕は無意識のうちにまた煮詰まったのだろうと彼女の心中を慮り、覚悟していた。なんとなく予想できる未来が待っていると思ったのだ。(blog.tinect.jp)